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Subject: Vampire MIYU #25 (03/30)


佐々木@横浜市在住です。

# すでに走っている美夕最終話への別記事を拝見したので一言。
# 第二十二話で千里が独りだけ誰よりも寒がっていたのは
# 一種の伏線かなぁなんて思ったりします。
# 卵が冷えるのは困るって言うか。^^;;;

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  「捕まるか死ぬかってことさ」


       [オープニング]

    薄闇に包まれた世界。赤い世界。美夕の世界。
    そして美夕は毬をつく。

手毬歌の歌詞から毬が温かいものの象徴という事はわかります。
では「温かい毬」とは何でしょうか、と言うのがこのお話しです。


            最終話

        「永遠の午睡」


    「美夕、死んでね。私のために。」
    「千里が神魔 ...」
    「びっくりした?」
    千里は腋に従っていた、かつて両親だった者たちに
    美夕を襲わせる。
    だが彼等は美夕の敵では無かった。
    そして千里は溜息をついた。
    「お父さんもお母さんも死んじゃった。
     お兄ちゃんも殺したんだよね。
     私も殺すの ..美夕 ..」
    「どうかな。」
    「出来ないの? そうだね、私達友達だもんね。」
    千里は笑い、美夕は苛立ちともつかぬ表情を見せた。
    「でも美夕、私死なないよ。だって死ぬのは美夕の方だもん。」

完全に神魔として目覚めた千里にはもはや「友達」と言うのは
対監視者用の呪縛のキーワードでしかないのでしょう。
そして美夕はそのことを感じているはずです。

    何処までも広がる荒れ地でラヴァと嘴貧の戦いが続いていた。
    なぜ美夕を狙うのかと言うラヴァに嘴貧はそれが自分達の宿命だと言った。
    代々の監視者を倒すのが宿命なのだと。
    そして全ての神魔が宿命に従っているとも。
    自身のことを問われたラヴァは答える必用はないと言ったが、
    嘴貧は答など無いのかも知れないと言うのだった。

    荒れ地の一角に建つ小屋の中では、在りし日の美夕がお手玉をしている。
    手から落ちたお手玉は破れ、中から小豆がこぼれ落ちる。
    美夕はそれを目で追うが拾い集めようとはしない。
    鳶が現れ手の中の物は全てこぼれてしまうと言い、美夕にむりやり
    何かを食べさせた。美夕にとって苦いそれは人の魂。
    美夕は慄き母を呼ぶが母親はいないはずの父親のことを
    話続けるだけ。
    母親は赤い着物と白い着物、どちらが欲しいかと聞き
    美夕は着物なんか要らないと答える。
    「ふーん。これが美夕の家なんだ。初めて見た。」
    突如、千里が現れ美夕に語りかけた。
    「誰?」
    「忘れたの? 友達じゃない。」
    「私、友達なんていないもの。」
    「どうして? 美夕も友達が欲しいんでしょ?
     だから来てあげたんだよ。」
    「友達なんか要らない。」
    「嘘だよ。」
    鳶は言った。
    「お前の手には何も残らない。」

これは美夕の所謂「心証風景」と言うことでしょうか。
そして場違いな服装で現れる千里は美夕の心に踏み込んだ存在ですね。
美夕の家の周りが、ラヴァの戦っている所と同じ様に荒れ地なのは
鳥達の世界に取り込まれている情況を現しているのでしょう。

    ラヴァと死闘を続ける嘴貧は鳥達を呼び寄せた。
    周囲を取り囲む黒い影。

    暗い教室。並ぶ机。椅子には卵が一つづつ。
    「私の中に卵があって、卵の中に本当の私が眠ってた。
     美夕と出会って卵が目を覚ましたんだよ。」
    「それは千里じゃない。」
    「どうして? 喜んでくれないの? 卵は美夕をずっと待ってたのに。」
    「私の所為なの? 卵が眠っていたから私が気付かなかったの?」
    「そうだよ。私嬉しいんだ。ずっと子供のままで居られるんだもん。」
    「神魔としてね。」
    「だから、何?」
    「闇から生まれたものは闇に帰らなければいけないの。
     この世には居られない。」
    「そんなことないよ。」
    「この世を全て闇にしてしまえばいい。」
    鳶の声がした。
    「黒い翼で覆ってしまえばそこに光は必要なくなる。」
    何かに気付きハッとする美夕。
    「闇はこの世から追い払われたわけではない。
     人間の中に眠っているのだ。一つ一つの闇が殻を破って出てきた時、
     世界は大きな卵を形作り真の闇となる。
     巨大な闇。温かい闇。神魔の世界だ。」
    闇に赤子の声が響く。
    卵をさすりながら千里は言う。
    「みんな本当は大人になんかなりたくないんだよ。
     目を覚ませばいいのに。思い出せばいいのに。暗闇を。」
    「それは、目覚めじゃない。」

鳶の言ったことは単純に考えると全ての人間が神魔を産み出す闇を持っている
と解釈出来るのですが、美夕が驚いた理由がわからないです。
この解釈程度の事は美夕はとっくに判っていると思われるからです。
はぐれ神魔は永遠に現れ続けるってのもこの解釈の延長にありますが
それも美夕が驚くような事じゃないですよね。
何にハッとしたんだろう。

目覚めじゃないって言う美夕の言葉はもっともです。
それは逆だよ千里。(でも神魔になってるから聞く耳もってない。)

    嘴貧はラヴァに言った。
    美夕の炎は彼女の思い。
    だから最強の神魔にはぶつけることが出来ないのだと。
    ラヴァが美夕に思いを馳せた刹那、嘴貧の一閃がラヴァの仮面を
    二つに割いた。

過去の神魔の中でも、相当に手強い嘴貧。
雑魚神魔じゃないのね。^^;;;
烏天狗みたいだけど。

    青い空に黒い羽根が浮かぶ。
    「覚えてるでしょ? ここ。お兄ちゃんが美夕に殺された所。」
    「私は、はぐれ神魔を闇に帰しただけ。」
    「そんなのない! 私のお兄ちゃんなんだよ!
     お兄ちゃんは目覚めなくてもよかったのに。
     美夕が居たから、美夕の所為じゃない!」
    「好きだったの? お兄さんのこと。」
    「そうだよっ、私大きくなったら絶対お兄ちゃんの
     お嫁さんになるって決めてたんだから。」
    「でも千里、あなたは大きくはならない。」
    「だからいいんじゃない!
     いつまでも、そう思っていられるからいいんじゃない。
     私の夢だったの! 美夕が壊しちゃったの!
     だから美夕、死んで ...」
    独鈷を突き翳して美夕に迫る千里。
    美夕は千里に炎を放った。
    炎に包まれる千里。
    「千里、さよなら。」
    しかし炎は一瞬で四散した。
    愕然とする美夕。
    「私には通じないよ、それ。」

嘴貧の指摘どおり、美夕の炎は千里には効きません。
最終兵器の本領発揮ですな。^^;;;
親しげだった千里の表情がだんだん崩れ始める前兆があります。
神魔らしい陰鬱な笑顔に近づいている。

# 炎が散った直後の千里のちょっと乱れた感じに萌えてしまった私。(爆)
# 髪がバサバサってなってるとことか。その後の一連のカットもいいっす。
# 今回はやっぱ気合い入ってますね。絵がずっと綺麗。

        [CM]

    激しく流れる水。水中から現れる鳥達。
    ラヴァは彼等を切り裂いたが、それも嘴貧には通じなかった。
    そしてラヴァには美夕の呼び声が聞こえていた。

どうしてあの荒涼とした鳥達の世界にあんなに豊富な水量の河が?

    「無駄だよ。美夕の僕? それも死んじゃうの。
     さよならだね、美夕。」
    「これが友達って事なんだね。」
    「うん。だって美夕も死にたがってるんじゃない。」
    「そうかな。」
    千里の独鈷が美夕に突き刺さり、それは真っ赤に染まった。
    「美夕の力、貰うからね。私の中で美夕の血が生きるの。
     永遠に。いいでしょ。」
    黒い十字架に倒れ伏す美夕。

美夕は頻繁に「そうかな」といった系統の返事をします。
これははぐらかす意味合いの時が多いのですけど、今回の場合は
殆どは言葉どおりの意味に受け取っても良さそうです。
つまり自分の気持ちがよく判らない。
で、自分の内面へ降りて行きます。

    遥かな高みより紙吹雪が舞い降りる。
    「美夕。」
    呼びかけるもの。
    「死ぬのですか。」
    美夕に向かい合って坐っているのは冷羽。
    「どうでもいいな。」
    「それは残念ですこと。
     あなたを倒すのは私と決めておりましたのに。」
    「待っているつもりだったけれど。」
    「監視者の口からそんな言葉を聞くとは思いませんでした。
     はぐれ神魔ごときに負けるなんて。
     私はそんな弱い相手に破れたとおっしゃるのですか?」
    「勝つとか負けるとかそんな事の為に私が居るわけじゃない。
     ただ宿命があっただけ。」
    「宿命に流されている、それだけなら
     はぐれ神魔と変わりがありません。
     それが美夕、本当のあなたなのですか?」
    「私は此にいるよ。ずっと。これまでも。これからも。」
    「お父さまも守護神魔達も無駄なことをしたものです。
     でも、それもあなたにはどうでもよい事なのでしょうね。」
    「そうだね。あれも夢だったのかもしれない。」
    「そんな監視者なら死んでも構いません。
     ご勝手になさいませ。」
    そして冷羽が消える。

自分に向き合いに行った美夕が最初に出合うのが冷羽です。
もちろんこれは、この後の白塗兄ちゃんが自分で言うように
美夕が自分で呼び出した冷羽であって、本人ではないですね。
(冷羽自身なら絶対美夕に「負けた」なんて言わない。)

    かつて美夕の目覚めに立ち合った青年が現れる。
    「あなたは。」
    「覚えていないのか。」
    「ううん、でも。生きていたの?」
    「死んだ。それも忘れてしまったんじゃないだろうな。」
    「思い出させるために来たの?」
    「お前が俺を呼んだんだ。」
    「そんなつもり、無い。」
    「いいや。お前は帰りたがっている。だから此へ来たんだ。」
    「そうじゃない。私は。」
    膳をたたく竹竿の音。
    美夕の母親が居る。美夕の父親のことを語る。
    「お前も大きくなったねぇ。晴れ着が要るよ。
     お父さんもそう言っていたよ。
     美夕、赤い着物と白い着物、どっちが欲しい?」
    「判らない。」
    「川を見ておいで。」

    赤い小川が流れている。
    その川辺で石を積んでいる少女がいる。
    それを対岸から見詰める美夕。
    「血のようだねぇ。」
    死無が美夕の肩に現れる。
    「花が流れているの。」
    「あれが子供の頃の美夕かい?」
    美夕は答えず、代わりに着物のことを尋ねた。
    死無は答える。
    赤い着物は囚人の服、白い着物は京帷子と。
    捕まるか死ぬかと言うことだと。
    突風が吹き、積み上げられていた石が崩れる。
    驚く幼い美夕の手のひらの上で石が砂となって舞う。
    「みんな風に吹かれて砂になっちまったんだね。」
    「そう。私は死んでいるから生きているんだね。」
    「川を渡るのかい?」
    「ううん。私は ...」

この川は「三途の川」と言うことですかね。
河原で石を積むのは親より先に死んだ子供って事なんですが、普通は。
美夕の「私は死んでいる」とは人間としては死んでいると言うこととして。
ただし、人間として死んだのは監視者になった時だと思うのですが、
これはお母上が死んだときとほぼ同時期なので微妙に意味が合わないような
気もします。

少女の頃の美夕の着物は桃色(赤でも白でも無い)に見えるのですが
(最初に赤がいいか白がいいかと聞かれた頃の事。石積み少女じゃないです。)
現在の(監視者となった後の)着物は白に赤を合わせ(重ね)てます。
つまり選ばなかったのですね。今までは。

# 単に襦袢がはみ出しているわけでは無いだろうな。

「みんな砂になった」は、手のひらには残らないって事の言い換えかな。
川を渡らないのは監視者をまだ続ける決意。

# この死無も美夕の心証世界の住人か?
# 本物の可能性も有るからなぁ。死無の場合。
# 今回は死無も表情が色々動きましたね。ああ、堪能しました。^o^

    鳥達を切り裂き続けるラヴァ。
    だがその一群に姿を変えた嘴貧が潜んでいた。
    一瞬の隙を突かれたラヴァは左腕を失う。
    勝利を確信し一気に迫る嘴貧にラヴァは右手を翳した。
    そこから放たれたものは炎。
    その炎に焼かれながら嘴貧は問うた。
    ラヴァは言った。
    自分の中には美夕の血が流れていると。
    その血が燃えているのだと。
    嘴貧はラヴァを異端の鳥と呼び闇に帰った。
    ラヴァは自分は運命を絶ち切る爪を持っていると言った。
    そして美夕の血はまだ燃えていると。

    美夕を見下ろす千里。
    「美夕、美夕と会えてとっても楽しかったよ。忘れない。
     でも、もうここに美夕は要らないんだよ。バイバイ。」
    「美夕!」
    ラヴァの呼びかけに身構える千里。
    しかしその顔に驚愕の色が浮かぶ。
    千里の足を捕らえる美夕の手があった。
    「私は死ねないの。」
    美夕の声が千里の中に響く。
    そしてラヴァの爪が千里の宿命を絶ち切った。
    美夕は自分の世界で、白い羽根が舞い
    羽ばたきが去っていくのを聞いた。

すっかり神魔顔になった千里。
破れた殻はもう元通りにはならないのです。

# ラヴァの個人的な感情が大分入ったのかな、あの攻撃には。
# しかし ...女の子の首が落ちるのは気分は良くないなぁ。
# ストーリー的には悪くは無いと思うけれど。

    太陽が照り付ける昼下がり。
    校庭のベンチに腰掛ける由香利、久絵、そして千里。
    「夏だねぇ ..」
    そんな千里の呟きに由香利は答えた。
    「もう、行かなきゃ。授業が始まるよ。」
    「授業なんか無いもん。」
    「なに馬鹿なこと言ってんのさ。」
    「時間が止まっちゃったんだ。ほら、あの雲も動かない。
     風も吹かない。」
    「ただ天気がいいってだけの事さ。」
    「それでもいいの。私、ずっと此にこのままで居るんだ。」
    「このままで居られたらいいかも知れないね。」
    「久絵まで何言ってんだか。」
    「苦しみも、世の中の暗いところも見なくて済むのなら
     それもいいと思わない?」
    「そうだよ、私、今が一番幸せだもん。
     お兄ちゃんは居るし、由香利や、久絵や、それに。
     あぁ、何か眠くなっちゃった。」
    「起きなよ千里、授業だよ。」
    「もうそんなもの、無いの。私、眠るの。」
    「千里、千里。」

    「千里。」

    「夢を見ているんだね。千里。此にいていいよ。
     私の世界でなら子供でいてもいいんだよ。
     此には友達が一杯いるよ。お休みなさい。」

    薄闇に包まれた世界。赤い世界。美夕の世界。
    そして美夕は毬を抱く。
    千里の寝顔を。

               完

    「行かなくちゃ、ラヴァ、死無。
     はぐれ神魔が待っているよ。」


千里の見ているのは、卵が孵る直前の頃の事でしょうか。
あの瞬間で時が停まった夢を。
美夕の世界の毬は皆誰かの心なんでしょうね。
だから友達がいっぱい。
あの毬の中には、美峰ちゃんや璃莉ちゃんの心もあるんだろうなぁ。
でも千里の毬は特別。(ちょっと怖い)
安らかな寝顔 ...と書きたいけれど実際は非常にリアルな死人顔。
そしてそれを抱く美夕の顔は何処か "イッちゃった" 表情。
だから最後に立ち直った(開き直った?)証の台詞が入って居るのですが、
ここは無くても良かったかも。
あるいは絵で表現して欲しかったかな。
別な学校の制服を着ている美夕が、ちらっと出れば十分にわかるから。

さて結局のところ美夕は宿命に流されたのでしょうか。
監視者を続ける事を選んだのだから、多少は宿命に逆らったと
思いますがどうでしょうか。
もっとも嘴貧が言ったのが一番真理に近いようですが。
「答は無いのかも知れない。」

しばらくは、もやもやと引きずるな、これは。
なにしろ私の卵は孵らなかったので、現実逃避できませんから。^^;;;

[美夕総まとめ]
ところどころ、多少問題の有るエピソードも有りましたが
全編を通してみると、かなり上の方に私は位置付けます。
OVA美夕とは違った物を作る試みは成功と評価したい。
大体、嫌いなら詳細記事を書こうって気にはならないし。


さてさて。
さわださん、Eagleさんと来て、わたくしめが引き継いだ
美夕ノベライゼーション(笑)もこれで最後となりました。
私の稚拙で長い記事にお付き合いいただいた皆様へ感謝を捧げます。

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   「今度はLDで見とくれよ」

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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