近所に商店が無いので買い物は車で十分程走った所にあるショッピング
センターにまで出向かなければならない。
果物が並んでいるコーナーで偶然見かけた梨を買った。
洋梨ではなくお馴染みの円い方の奴だ。近ごろでは、この辺りでも
こんな物が手に入るのかと感心した。
戻ってみると正面玄関にすっかり顔馴染みの看護婦が待っていた。
私の姿を認めると、何か叫びながら手を降っている。
早口では判らないからと何度言ってもすぐ忘れてしまうのは困ったものだ。
今日も余所物の私には聴き取り不能の速度で何かをまくし立てている。
一瞬、考えたくもない事柄が脳裏に浮かんだ。
だがその心配はなさそうだった。彼女は理由は判らないが笑っていた。
駐車スペースに車を停めると彼女をなだめながら病室へ向かう。
扉を開けて中に入る。彼女は廊下で待っているつもりらしい。
ベッドに近寄って、そっと覗き込むと、か細い声が呼んだ。
「おじいさん。」
私は孫を抱きしめる。
大声で孫の名を呼び、それを繰り返した。
騒ぎを聞き付けて他の看護婦やら医師やらが廊下で
話し合っているらしいがそんな事はどうでもいい。
だが彼女には迷惑だったかも知れない。なにしろ私は声が大きいのだ。
そうだ、息子に電話しなければ。他の孫達にも伝えよう。
たとえ向こうが深夜でも知った事か。
「シゲルか? 今、サクラが目を覚ましたぞ!」
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