蛍汰の想像した通り、そのときの阿嘉松社長の駆る軽自動車は制限速度を 100km近くオーバーしていた。そしてアカマツ工業に到着するまでに 少なくとも三台の交通機動隊のパトロールの前を通過している。 だが、一台もその軽自動車を追い掛ける事は無かった。 三台のパトカーに乗り合わせた都合六人の警官から語られた体験は 何処からとも無く外部に漏れていった。そして対向車線を走っていた 数台の車の運転手の証言と共に噂は確実に拡がっていった。 曰く。 夜の湘南を疾走する女の幽霊を屋根に乗せた乗用車と。 そんな噂が拡がっている事は、乗っていた四人は勿論、 勝手に屋根に飛び乗って居たチャンディが知る由も無かった。