「なぁ、火乃紀。」
「ん、何?」
「思ったんだけどさ、あの子に名前付けないと。」
「あ、そうだね。でも、もう名前があるって可能性も ...」
二人はそろってチャンディの方を見た。
部屋の片隅で伸びて寝ている。
「..まだ無さそうね。」
「だよな。」
件の子供は、そのチャンディを枕にしてやはり寝ている。
「どんな名前がいいかしら。」
「そもそも根本的に、」
「?」
「男なのかな、それとも女の子かな。」
考えたことも無かった。
そもそも、この子は初めて会った日以来一度もプレトを脱いでない。
普段見えるのは顔と二の腕と腿の辺りだけだった。
二人は、そろそろとチャンディと子供の許に近づく。
起こさない様に注意しながら、横から下から眺め眇めつした。
しかし。
「見えないね。」
「俺達って何してんだろ。」
火乃紀は顔を赤くして言った。
「蛍ちゃんが言ったんじゃない。」
「いや、まぁ。」

*

「取りあえず、男でも女でも構わない名前にしようか。」
「そうね。例えば "かおる" とか。」
「"つばさ"」
「"あきら"」
「何だかどれも聞いたこと在るような無いような。」
「う〜ん。」
「"まき"」
「ちょっと女の子寄りじゃ無い?」
「そうかな。」
「でも、悪くないかも。語感も可愛いし。」
「じゃぁ、字とかどうする?」
「こんな感じかな。」
火乃紀が新聞の隅の余白に "真紀" と書いた。
「もっとこう、変わった表記が良くないか?」
「何で?」
「何となくだけど。"火乃紀" みたいに。」
「じゃ考えてよ。」
ちょっと唸ってから、蛍汰は "摩己" と書いた。
「うん。いいよ。意味にも愛があるね。」
「え?」
「...偶然だったのね。」
考えた訳では無かったので、蛍汰は後でこっそり辞書を引いた。
それはともかく。一番下の同居人はその日から "摩己" となった。


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