その子は蛍汰と火乃紀の顔を交互に見比べるように見詰めた。
「どう、したのかな。」
とは蛍汰。
「わかんないよ。」
火乃紀も小さな子供の相手は経験が無いのだから当然だった。

おなかすいたって。

戸惑う二人にチャンディが言った。
蛍汰と火乃紀は思わず顔を見合わせる。
確かに。何か食べるのは当たり前の事だった。
キッチンに行って冷蔵庫を物色しながら火乃紀が言った。
「ねぇ、蛍ちゃん。何あげたらいいのかな。」
「何か軟らかいもんだろうなぁ。あと刺激の無い奴とか。」
「クリームシチューとかはどう?」
「あ、それでいいんじゃないか。」
取りあえず少し温めて持っていってみた。
「あ、平気みたい。食べてるよ。」
「ほんとだ、ほんとだ。」
二人にとっては何だか面白かった。

わたしにもなんかちょうだい。

そういえばチャンディも居たのだった。
子供の隣りに大人しく座っている。
「そういえばさ。俺、チャンディが何か食べるのって全然想像したこと無かった。」
「でも、普通でいいんじゃない?一応人間の女の子なんだし。」
実は自信が無かった。
取りあえず彼女にもクリームシチューを出してみた。
チャンディはそれをしばらく眺めていたが、やがて皿を手に取ると
口に付けて傾けた。口のまわりにすこし着いたが何とか全部飲み込んだ様だった。
「スプーンとか使ったこと無いのね。」
「やっぱり想像出来ねぇもんな。」
しかし不思議なことに、もう一人はちゃんとスプーンを使っていた。

もっとなんかたべたい。

蛍汰と火乃紀は、顔を見合わせた。
シチューはもう無かったので有り合わせの材料で適当に料理を作ると
どんどん出してみた。
その全てをチャンディはしばらく眺めてから綺麗に食べた。
軟らかい物は皿を傾けて流し込み、固いものは手づかみだった。
見ていると時々チャンディは自分の食べているものを、隣りの子供に
与えていた。どうやら、その子が食べられそうな物を選んであげているらしい。
何だかそれがとても微笑ましかった。

*

「そうなんすよ。可愛いんですよ阿嘉松さん。」
「何でぇ蛍汰、可愛いって割にゃなんだか疲れてんじゃねぇか。」
「それがですね。チャンディって物凄い大食いなんですよ。」
「あのスリムな嬢ちゃんがか?」
「俺達の一日分くらい一回で食べるんすから。大変っすよ。」
「大変って、おめぇそれ。もしかして?」
「あれから居着いてるんですよ。」
「まぁ、いいじゃねぇか。丁度いい用心棒って事でよ。」
阿嘉松社長は、がはははと豪快に笑った。
ひとしきり笑うと、阿嘉松社長は真面目な顔で言った。
「よう蛍汰よ、家族手当、出してやろうか?」
「お願いします。」

その頃、家ではチャンディと、あの子が屋根に上がって日向ぼっこをしていた。
小さな寝息が二つ聞こえていた。


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