見せ物小屋

祭りの夜。
私は見せ物小屋を見かけた。
今どき珍しい。
黒ずくめの小男が客引きをしていた。
案内された小屋の中は非常に狭く、
それを更に幾つかの個室に仕切っていた。
個室の一つに入ると小男が香炉を一つ持ってきた。
緑色の煙が立ち上っている。
この煙を吸うと自分の本性が現れるのだそうだ。
個室の正面には鏡が一枚あった。
私はその中の自分の顔を見つめながら、
その不思議な香りを嗅いだ。
ふと気付くと、鏡の中に醜悪な生き物が写っていた。
恐らく鏡に仕掛けがあって別の映像を写しているのだろう。
ご丁寧に私と同じ服装である。
なぜか私はとても不愉快になった。
単なる見せ物なのだ、笑い飛ばせばいい。
だが、出来なかった。
私は香炉を鏡に投げ付けた。
鏡は砕け散ったが、その仕掛けは分からなかった。
個室の外に出たが小男の姿はなく、
私は結局、乱暴を詫びることが出来なかった。
それ以来、私は時々、鏡の中にあの醜悪な生き物を見る。
どうやら目に焼き付いてしまったようである。
困ったことに見かける頻度が増している。
質が悪いことに、この幻は他人にも見えるらしい。
私を見た他人が何度か叫び声を上げるのを聞いた。
困った私は医者に相談した。
最初の医者は逃げてしまった。
無礼な奴だ。
二人目の医者は私の為に入院を勧めた。
病院は山深い郊外にあり病室は個室だった。
私はいま、ここで静かな暮らしを送っている。
しばしば検査があって煩わされるが、
それ以外は快適だ。
一つ不満があるとすれば、窓枠に格子が入っていて
外が見えにくいことだ。
こんな山奥に何が居ると言うのだろう。
怪物?
そんな物は何処にも居るはずは無いのだ。
すべて幻の産物なのだから。


[Back]