自宅の最寄りの一つ手前で環状線をおりてから
ぶらぶらと歩くのだ。
その途中にある喫茶店。
夜勤明けのときは、ほとんどここで朝食を摂る。
カラ〜ン。
ドアの所にあるベル、本当は別な呼び方があるのだろうが、
この音も気に入っている。
この時間、客はまず居ない。
私はいつものように奥の窓際に座る。
「いらっしゃいませぇ。」
おや、見かけない娘だ。
「ああ、モーニングセットを。」
「かしこまりましたぁ。」
バイトか。
高校生かな。
そうか、もう冬休みなのか。
「ワン。モーニングですぅ。」
「はーい。」
ん?カウンターもバイトの様だ。
「えっと、なんだっけ。」
「ほんと、物覚え悪いわね。アンタはトースト焼くのよ。」
「あ、そうだ。」
「あの〜、セットのコーヒーって、何付けるんでしたっけ?」
「アメリカン!]
「はぃ。」
あの、赤いエプロンの娘がリーダー格か。
この娘たち、何処かで
見かけたような気がするが...
「ねぇ、パン。これで厚くないかな。」
「アンタだったら、それが出てきたら嬉しい?」
「うん!」
「じゃ、厚すぎよ。」
「...」
私は、ブ厚くてもいいんだが。
「コラ、そこ!」
「はぃ?]
「コーヒーは最後に注げばいいの!」
「はぃ。」
別に、先に持ってきてもらっても構わないよ。
「手持ちぶさたですぅ。」
「接客担当は、そこで待ってればいいの。」
「トースター、何分?」
「最後に使ってから、だいぶ経ってるでしょ。」
「うん。」
「じゃ、5分。」
こんがりと、頼むよ。
「えーっとぉ、」
「火を使ってる時は、話しかけないで。」
「はぃ。」
スクランブルエッグは、ふっくらとね。
「焼けたよ。」
「バター。」
「ほいほい。」
「こっちも、いいわ。」
「コーヒー注ぎますぅ。」
「あと、サラダをだして。」
「これで、いいかな。」
「よし!、もってって。」
「はい!」
「お待たせしましたぁ。」
「ありがとう。」
「ごゆっくり、どうぞ。」
おお、トーストがいつもより厚い。
その分、中の方が温まっていないが。
スクランブルエッグは、胡椒が強めだな。
コーヒーが、今日は良い香りだ。
作り立てのいいタイミングに来た様だ。
「朝の忙しい時間過ぎると、急に暇になるんだね。」
「当然でしょ。普通、仕事してる時間よ。」
「ああ、そうですねぇ。」
私は、仕事帰りだ。
断じてプータローではないぞ。
「あと、徹夜明けの人とか来ないのかな。」
来てる。
「本、書く人なんてどうでしょう。」
残念だが、ハズレ。
「うちのパパなんか、あっちでは一日中、入り浸って居そうだわ。」
「ハハハ。」
「くす、くす。」
君のパパさんは、遊び人なのか。
バイトの娘たちの話を聞くともなく聞いていたら、
何時になく長居をしてしまった。
珍しくコーヒーもおかわりしたし。
そろそろ、帰って寝るかな。
「御馳走様。」
「はい!、え〜と、600円ですぅ。」
「じゃ、これで。」
「はい。」
彼女、私から受け取ったカードをレジに逆さまに
突っ込んでないか...
「あれぇ。」
「逆さまよ!、黒い方が下!」
「あ!」
この娘、カード使ったことが無いのだろうか?
自分では持って無いだろうが、
それでも一度ぐらいは使った事が有るだろうに。
もしかして、何処かの大金持ちのお嬢さんか。
「失礼しました。」
「いや。」
「ありがとうございました。」「ありがとうございました。」「ましたぁ。」
店を出て、しばらく行くと前から知った顔が近づいてきた。
「やあ、マスター。」
「あ、おはようございます。」
「バイトの娘、入れたんだね。」
「ええ、ちょっとした知り合いの口利きで。
あ、何か粗相でも?」
「いやいや。ちゃんとやってたよ。」
「そうですか、よかった。」
「冬休み中だけなの?」
「年内だけなんですよ。」
「そう、残念だな。」
「は?」
「いや、何でもないよ。じゃ。」
結局、私は大晦日まで毎日同じ朝食を食べた。
次の期間限定スペシャルは春だろうと期待している。