夕食後のひととき。
後片付けは、ほぼ終わっていた。
シンジはいつものようにテレビを見ている。
レイはお風呂。
ユイは明日のお弁当のおかずの下ごしらえ。
テーブルには新聞を読んでいるゲンドウと、
それをじっと見つめるミドリ。
当初、遠慮ぎみだったミドリも、最近は
夕食に関しては全面的に碇家で済ませていた。
ちなみに、朝は食べない。昼は購買部専門である。
ユイはお弁当を作るから持って行きなさいと
いつも勧めるのだが、「相田君に付き合うため。」
と称して辞退していた。

「どうした。言いたいことがあるなら言いなさい。」
新聞を読みふけっている様に見えたゲンドウから声を掛けた。
「あ、後でもいいんですが。」
「かまわん。」
「実は、その、提案というかお願いが ...」
ミドリらしくない、持って回った言い方。
「なんだね。」
ゲンドウは新聞をテーブルに置いた。
「ええとですね ......」
ミドリはゲンドウの隣りに座り直してから耳打ちした。
「そうか、いい考えだ。ユイも喜ぶ。」
「良かった。でも、構わないでしょうか。集合住宅なのに。」
「問題ない。」
「そうですか、じゃ、早速。」
「待て。後は私にまかせたまえ。」
「ですが、そのくらい私でも。」
「いや、私もユイも君たちには普通の暮らしを
 して欲しいと思っている。遠慮はいらん。私が手配する。」
そういうとゲンドウは彼の仕事での顔を知るものが卒倒しそうな
柔らかい笑顔でミドリを見つめた。
「わかりました。」
それにはもちろん微笑みで答えた。

翌日の夕食前。
やはりテレビを見ているシンジ。
新聞を読んでいるゲンドウ。
レイは夕食の手伝い。といっても、並べるだけだが。
そして、機嫌のいいユイ。
「お母さま、何かいいことあったの?」
「フフッ。分かる?」
「知りたい!」
「すぐ分かるわよ。」
にこにこしながら、食事の仕度を続けるユイ。
レイは気になったが、それ以上は聞かなかった。
また、誰か同居するのかな?
漠然とそんなことを思った。

準備が終わったので、レイは隣りにミドリを呼びに行く
はずだったが。
「レイちゃん。今日からはこっちよ。」
「え?」
ユイはなぜか居間の方を指差した。
「こっちこっち。」
妙にうれしそうだ。
何か新しいおもちゃを見せびらかす子供のように。
そして、レイをベランダに誘った。
「何か有るの?」
シンジも、気になってついてきた。
ベランダに出る三人。
観葉植物がひと鉢あるだけ。
薄暗くて何もないベランダ。
のはずが、奥の方が明るい。
「???」
「あれ?」
「こっちよ。」
三人は、奥の方へ向かう。
ガラス戸があって、それを開けた。
「ごはんよ。」
「はい。」
返事をしたのはもちろんミドリ。
「なに、これ。」
シンジはキツネにつままれた様な顔で呟く。
「つながっちゃった。」
レイの感想だった。
「ね、驚いた?ミドリちゃんの発案なの。」
ニコニコ顔のユイ。
隣り合ったベランダの間の壁をぶち抜いたのだ。
しかも、初めからそういう造りだった様にきれいに仕上げてある。
「いいのかなぁ。」
シンジはちょっと気にしているようだが、
「いいかも。」
レイは好意的に受け止めた。
「大胆だったかな?」
発案者も出来上がりには少々驚いた。
しかも、一日でこの出来栄え。
「どっちもお父さんの持ち物なんだから構わないのよ。」
たしかに、それはそうなのだが。

以来、ミドリの離れは、まさしく渡り廊下で
つながった離れとなった。
そして、それ以後、ミドリは朝食を摂るようになった。
もちろん本家の食卓でだ。


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