卒業

その日、私はいつも通り学校へ行った。
皆と一緒に通う道。
大抵は走っている。
別に約束しているわけでは無いのに皆揃うまで出かけない。
だから、時間ぎりぎりになることが多いのだろう。
でも慣れてくると、このリズムも悪くないと思う。

学校に着くと靴を履き代える。
下駄箱を開ける。
上履を取り出す。
靴と一緒に封筒が出てきた。
いけないとは思ったが1時間目の授業中に読んだ。
困った。
こんな時どうすればいいんだろう。
誰に相談しようか。
やっぱり同性に聞いたほうがいいよね。

昼休み。
一緒にパンを買いに行った後、相田君は屋上へ。
私は教室へ戻る。
「ねぇ、アンタそれだけでお腹空かない?」
え、私の事?
「うん。平気だけど。」
「もしかして、ダイエットとか気にしてる?」
メロンパン1個と牛乳1パック。
ヒカリちゃんのお弁当も体積は同じぐらいじゃないかな。
彩りは違うけど。
「全然。」
「あ、でも、食べると肥るって嘘ですよねぇ。」
「そうかしら。」
「だってレイさんて、すごぉく食べますよ。」
「ななな、なんで私が引き合いに出るの?」
「アンタが一番の大食いって事でしょ。」
「たしかに、良く食べるよね。」
「ミドリまで言うか。」
「事実だから。」
「要はバランスじゃ無いかしら。」
「そうすると、今後一番危険なのはミドリね。」
「私?」
「バランス感覚ゼロ。」
「やだな。」
「アンタは瘠せ過ぎだから、多少肥ってもいいのよ。」
「そう?瘠せ過ぎかなぁ。」
「付くべきとこにも付いて無いでしょ。」
「それは認めます。」
「私も頑張りますぅ。」
「何を頑張るのよ。」
「ええとぉ ...」

「それは今後の課題として。」
「何、仕切ってンのよ。」
「みんな、ちょっと、相談に乗って欲しいんだけど。」
「何かしら?」
「これ。」
私は、重大な問題について彼女達の助言を求めた。
「手紙?」
「ですよねぇ。」
「んんっ(なに)」
レイ、食べ終わってからでいいよ。
「これがどうしたのよ。」
「下駄箱に入ってたの。」
「読んだ?」
「うん。」
「ラブレターなワケね。」
「そう。」
「素敵。」
「最近、貰ってないですぅ。」
「アンタも、欲しいの?」
「シンジ様から戴きたいですぅ。」
「ハイ、ハイ。」
やっぱり横道に逸れちゃった。
「初めてなの?」
「えっ?」
「貰ったのは初めてって聞いてンでしょ。」
「そうなの。」
「で、答えは。」
「困ってるの。」
「アンタ、バカぁ?イエスかノーかでしょ。簡単じゃない。」
「誰もがアスカみたいに、ぱっと答えが出るわけじゃ無いのよ。」
「そういうモンかしら。」
「ねぇ、ミドリは誰か好きな人がいるの?」
あれ、なんか全員がこっちを見てる。
「別に。」
「そうなの。」「ふーん。」「はぁ。」「(モグモグ)」
なにかほっとしたように見えるのは気のせい?
「じゃ、どうして困ってるの?」
「うーん、どうしたら良いか分からないから。」
「いつもヘンタイと喋ってるからビョーキが移ったんじゃない。」
「女の子が好きって訳じゃ無いよ。」
「どっちにしろ、OK出来ないなら、どんな理由を付けても
 相手にとってはノーなのよ。」
「アスカならどうする?沢山貰うでしょ?」
「無視するわ。全部ノーだし、返事しきれないもの。」
「そう。ヒカリは?」
「そうね、"ごめんなさい" かしらね。」
「レイは ...」
「んんっん、んんん。」
右に同じね。
「ミズホは?仮に貰ったとして。」
「はぁ、お断わり申し上げますぅ。」
「有難う。後は、自分で考えてみるね。」
結局、放課後まで結論は出なかった。

取りあえず、会ってみることにした。
アスカの言う通り、相手にとってはノーになるのだろう。
だが無視するのは悪い気がした。
会って、正直に気持ちを話そうと思った。
約束の時間に、校舎の裏に行ってみた。
相手はすぐに分かった。
名前から学生名簿を検索したから。
「ありがとう、来てくれたんだね。」
「あの、ごめんなさい。」
「やっぱりか。」
彼はちょっとだけ寂しそうな笑顔で言った。
「やっぱりって、期待してないのに手紙をくれたんですか?」
「あ、ごめん。気に触ったかな。もちろん期待を込めたさ。
 ただ ..」
「ただ?」
「最近、A組の転校生は皆、碇シンジ党続きだからね。」
「ああ。そういうことですか。」
「勘違いしないで欲しいのは、俺は他の子に
 ラブレターを出した事は無いよ。」
「ありがとう。でも、そういうの困るんです。」
「君もやっぱり、碇君が好きなの。」
「さぁ、違うと思います。シンジ君は大切な友達ではありますけど。」
今のところ、と付け加えるのは止めた。
「そうか。取りあえず彼に負けた訳じゃないんだ。」
「男子には、シンジくんに負けたと思っている人が居るんですか?」
「そういう思いも多少は在るよ。否定はしない。」
ふーん。男の子って、そう言う感じ方をするわけね。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何かな。」
「どうして、私に手紙をくれたんですか?」
「春日君が好きになったから。」
「えっと、そういう意味じゃなくて。」
「ん?」
「その、目つき悪いし、膨らんでないし、男子見たいな格好だし ...」
「そうだな、空気かな。」
「空気?」
「うん、何か、傍に居てくれたら、うれしいかなって。
 それ以上、上手く言えない。ごめん。」
「十分です。有難う。」
「あのさ、こんなこと言う奴、女々しいと思うかも知れないけど
 恋人じゃ無くていい、"ともだち" って奴の一人にしてくれないかな。」
「ええ、それなら大歓迎です。」
「ありがとう。学校ではもう会えなくなるけど、今度、お茶しよう。」
「あ、卒業しちゃったんですね。」
「ああ、メール送るよ。そのうち。」
彼はそういうと途中2度振り返って手を振った。

「出て来なよ。」
「何だ、バレてたか。」
「ごめんなさいね、私はよしましょうって言ったのよ。」
「ズルイわよ、ヒカリ。」
「結構、かっこいい人ですぅ。」
「誰よ?アイツ。」
「先輩だよ、3年生。」
「あなた達って、ほんと碇君以外に興味無いのね。
 結構、人気あるのよ、あの先輩。」
「シンジに目が眩んでる見たいな言い方しないでよネ。」
「いまさら、とぼけなくてもいいわ。」
「ねぇねぇ、結局何て言ったの?」
「ごめんなさいって。」
「それで、引き下がったワケ?軟弱ね。」
「友達になってくださいって。」
「で?」
「それならいいですよって答えた。」
「微妙ネ。それは。」
「えっ?何が?」
「あのネェ、"ともだちなら" ってのは、今はノーです。
 だけど、将来は判りません。って事でしょ。」
「あ、そうなの。」
「判ってないで言ったわけ?」
「言葉通りの意味で言ったんだけど。」
「アンタ、経験足らないわ。」
「この前、カヲルにも言われた。」
「ゲェ、アイツと同じ発言なんて最低だわ。」
どうも、私はみんなより子供らしい。
どこが違うんだろう。
誰かを好きでいることかな。
私は誰かを好きじゃ無いのかな。
考え出すと止まらない。
まあいいや、いくらでも時間はあるし。

「さ、行くわよ。」
「どこへ?」
「晩ご飯までまだ時間があるでしょ。」
「何処にしよっか。」
「ケーキがいいですぅ。」
「あ、新しいお店知ってる。」
「決まりね。ミドリ、アンタのおごりよ。」
「え?何で?」
「今日の付き合い賃。」
「悪いわよ、そんなの。」
「了解。おごりましょう。」
「ホント?言って見るもんね。」
「やった。」
「ごちそうさまですぅ。」
「ほんとにいいの?」
「うん。」
「じゃ、お言葉に甘えて。」
今日は、色々な事を知った気がする。
授業料ってところかな。
でも、レイ。
何処にそんなに入るのかな ...


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