プロローグ
静岡県・伊豆半島。
第3新東京市から然程遠くないこの地は、
現在でも手軽な保養地としての地位を保っていた。
半島の南端に近い入り江の奥にある漁港。
近隣の温泉地に、地場の魚貝類を送る重要な拠点である。
その港の入り口を守る防波堤の上に人影があった。
午前零時。
地元の者ではない。
暗い色のズボンに長袖シャツ。
ジャケットを着ている様だ。
辺りには他に人影はない。
海の彼方に星空との境で青黒い水平線が見てとれる。
ややあって、その水平線の向こうから
歪な影が近づいてきた。
特徴の無い漁船。
灯りは点けていない。
船は音もなく進み、防波堤の所で停まった。
船の上には人影が20人程。
やがて静かに船から防波堤に上がりはじめた。
みな、細長い荷物を背負っている。
全員が降りると船は来たときと同様に
音もなく去っていった。
船を降りた人影は、待っていた人影に従って
その場を離れた。
だれも、言葉を発しないまま。
●
その5日前。
何処とも知れない地下施設。
その中の一室に1人の男が居た。
静かに自分の机に座っていた。
コンコン。
ドアをノックするものがある。
「入りたまえ。」
一人の若い女性が入ってきた。
「ご報告します。」
「ああ。」
「彼が予定通り逃走しました。」
「そうか。遅かったな。」
「システムは正常に作動中です。」
「そっちは任せる。」
「それと、Dマイナーのプロトタイプを持ち出しています。」
「幾つかね?」
「24セットです。」
「欲張りな奴だな。」
「誰かを見に行かせなくてよろしいですか?」
「今回はいい。」
「分かりました。」
そういって部屋を後にした。
「さて、どう出るかな。」
彼は一人ごちた。
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