ズンッ。
その日、町の中心部一帯は突然の
振動に見舞われた。
幾つかの建物から断続的に白煙が上がった。
付近には避難勧告が出された。
そして、町の中心部は無人となった。
ある建物を除いて。

その、建物の最上階。
「随分と派手に、やってくれるね。」
「ああ。」
「セオリーからいけば、これは陽動だな。」
「間違いないだろう。」
「問題は、本命が何処かということだが。」
ゲンドウはそれには答えず、電話を手にした。

プッ。プッ。
用務員室の電話が妙な鳴り方をした。
加持は受話器を取り上げ、耳に当てる。
ザーッ。
雑音のみ。
ボタンを押して、二十数桁のコードを送る。
しばし後。
「私だ。」
「また、何かありましたか?」
「既に状況は把握しているだろう。」
実際、その通りだった。
「ははっ。で、何をすればいいんです。」
「ポイント24−Bで合流してくれ。
 現場での判断は任せる。」
「自分がそちらに出向いたほうが早いと思いますが。」
「いや、君には別な場所へ行ってもらう。」
「了解。」
それで、話は済んだ。
「さて、行くか。」
こんな時のために、装備一式は車に積んである。
ただ走り出せばいいのだ。

市内の中心よりややずれた、まだ建設中のビルの多い区画。
環状道路と市外へ通じる道の立体交差近くで加持は車を止めた。
程なく3台の車がそのそばに停車した。
引越業者のトラック2台とクリーニング屋のワゴン車。
ワゴン車から、車に付いているのと同じマークのエプロンをした
男が降りてきて加持の車に近寄ってきた。
「クリーニングのご用はありませんか?」
「生憎、汚して困るような服は持ってないんでね。」
「服以外も承りますが。」
「例えば "魂の洗濯" とか?」
「ええ、もちろん。」
加持は車を降りて男と共にワゴン車に乗り込んだ。
そして車は静かに走り出した。

「なぁ、止めないか。」
「合言葉、ですか?」
「今どき、あれは無いだろう?
 お互い初対面でもあるまいし。」
「私の一存では何とも ...司令におっしゃって下さい。」
あの人はそういった事が好きだからな。
加持はあきらめて話題を変えた。
「それは?」
加持の視線の先に黒い筒の様なものが数本立て掛けてある。
色以外は天体望遠鏡とあまり変わらない格好をしていた。
「新しい "おもちゃ" ですよ。"筒" って呼んでますが。」
男は愛想笑いの様な笑みを浮かべて言った。
「やれやれ。テストはしてあるんだろうな。」
「一応。」
「外で使うのは初めてって事か。」
「そう言うことです。」
「なぜ、今回持ってきたんだ?」
「司令が使えとおっしゃいまして。」
「そうか。スペックを聞いておこう。」
「本体と予備バッテリー3本、冷却用ガスボンベ1本で1組です。
 バッテリー1本当たり連射で6秒、断続で25発です。」
「射程と精度は?」
「射程は晴天で12km、小雨で100m前後。
 精度は距離に関係なく±2cmとなってます。」
「今日が晴れで助かったよ。」
そう言いながら胸に手を当てて硬い手触りを確認した。


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