「あれー。何かしらね。」
生徒達を送り出した後、バスに戻って外を眺めていた
ミサトは同行していた副担任赤木リツコに声を掛けた。
「あれって?]
まるで興味の無さそうな気のない返事。
顔も向けていない。
「あの車よ。」
来客用駐車場のはずれに二台のワゴン車が停まっている。
一瞥してリツコが答える。
「別に何って事無いんじゃない。ただのワゴン車でしょ。」
「車種の話じゃないの。運転席のやつ。」
「男。」
「だからぁ。」
「好みのタイプなら声でも掛けてきたら。」
「 ...」
さっぱり、相手にされていない事を理解して
ミサトは会話を断念した。
しかし ...
彼女の中にある何かが囁くのだ。
「胡散臭いわ。」
そう呟くとバスをおりて管理事務所へ向かった。

「ちわーっす。第一中学の者ですけど。」
正門脇の管理事務所受付でミサトは声を掛けた。
だが、応じるものは無かった。
「おかしいわね。昼休みかしら。」
受付の小窓から覗き込むが、やはり人影は見えない。
残念ながら奥の机の影に横たわったガードマン達は
ミサトの位置からは見えなかった。
「よっしゃ!直接つっついてみるか。」
踵を返して駐車場に戻る。
もっとも、その前に受付名簿を覗き見ることは
忘れなかった。

ミサトが戻ったときには駐車場のワゴン車からは
人影が消えていた。
そこで、取りあえずバスに戻る。
「その顔は収穫ゼロね。」
「あたり。」
「探ってみる?]
遊びに誘うような眼差し。
なにか良からぬことを考えているのは
ミサトにはすぐにわかった。
「何をするって?]
「探り入れてあげましょうかって言ったの。」
「どこから入れんのよ。」
「ここから。」
見れば、小型の端末がいつの間にやら準備済だ。
「ねえ、いつも持って歩いてるわけ?」
「大抵ね。あの子達の面倒見なきゃいけないし。」
「ああ、あれね。」
もちろん三匹の猫のことである。
「じゃ、せっかくだから来客名簿引っ張って見せてよ。」
「ちょっとまってね。」
何やら打ち込み始めるリツコ。
「出たわよ。今日の分。」
「どれどれと ...これだわ。」
「M&Sアジア御一行様ですって。」
「で、それは何者かしら?」
「検索してみましょ。登記簿を。」
数秒の後。
「あら、変ね。」
「何が?」
「休眠会社だわ、ここ。」
「じゃあ、あの連中は何。」
「さあ。」
「ちょっち、行ってくるわ。後よろしく!]
言うが早いか駆け出すミサト。

駐車場のワゴン車は、やはり既に無人だった。
フロント以外の窓は遮光フィルムが貼ってあり中はよく見えなかったが、
それでも後部座席には見覚えのある、そして
あまり平和的でない物が確認できた。
「冗談じゃないわ。」
ミサトは生徒達の居るビルへ駆け出した。


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