エレベーターはなぜか指定した階へは行かず、
まっすぐ地下1階へと降りていってしまった。
そこは昼食時に利用できるホールの筈だが。
カヲルは一瞬緊張したが、開いた扉の向こうに見覚えのある顔が
あるのを見て安心した。
「どうしたんだい、もうお昼だったかな。」
「あんた、バカぁ? 時計ぐらい持ってるでしょ。」
「手厳しいなぁ。」
全然気にしていない顔がそこにあった。
バカバカしくなってそれ以上は言わない。
代わりにシンジが説明した。
「よくわかんないんだけど、みんなエレベーターでここへ来ちゃったんだ。」
「全員かい?」
「あと、ミドリの班がまだなの。」
レイが引き継いだ。
ガチャ。
非常階段へ続く扉が開いた。
全員がそちらを見ると蒼い顔をした生徒達が入ってきた。
最後にいつもと変わらない様子でミドリが扉を閉めた。
ただ1つだけいつもと違うことがあったが。
「ミドリ!どうしたのよ。」
ヒカリが慌てて近づいてきた。
なんで驚いているんだろう。
私?変な格好してるかな。
ミドリは自分の身体を見回した。
そして右手から赤い雫が床に落ちているのを認めた。
「ヒカリ。」
「なあに?」
「あの子達の様子を見てあげて。」
「あなたの怪我の方が先よ!」
「大丈夫、私には助っ人が来たから。」
アスカとレイもそばに来ていた。
「何があったの?」
周りの生徒達は勝手なお喋りを止めていた。
「ちょっと事件かな。」
「事件って。」
ヒカリの不安げな表情。
「ここを避難したほうがいいと思う。」
「じゃ、1階に出て ...」
「だめ。こっちから。」
そう言うと別な非常階段の扉を指し示した。
「向こうから出ると、直接駐車場に行けるから。」
「わかったわ。」
ヒカリは自分の役目を毅然と果たしクラスメート達を誘導した。
既にアスカはミドリの腕に止血の為のハンカチを巻き終えていた。
カヲルが2人を皆から少し離れさせてから話始めた。
「そっちは大変だったみたいだね。」
「まあね。そっちは?」
「別に。」
軽くあしらったらしい。顔に書いてある。
「どうするの?」
レイも状況を察した。
「とにかく皆を逃がそう。」
「みんながここに集まったのは偶然?」
「私が小細工をしたの。」
得意げなミドリの顔である。
「なるほどね。」
こそこそやっていると案の定。
「アンタ達、なにしてんのヨ! 行くわよ。」
「わかってる。」
「子供はモメ事に首を突っ込まなくていいの。」
「うん。さっさと逃げよう。」
レイが言い、カヲルとミドリも続いた。
ミドリの指摘どおり非常口は敷地内の倉庫の様な小さな建物脇から
駐車場へ直接通じていた。
地上では、はちあわせとなったミサトが既に生徒達をバスへ乗せていた。
「何があったの?」
最後に出てきたカヲル達にミサトが尋ねた。
「良くわかりません。」
カヲルが緊張感の無い笑みで答えた。
「 ..そうなの。」
力が抜けてしまい、妙な笑顔を返してしまう。
「外では何かあったんですか?」
「別に無いわ。」
「でも、先生も対応が早いような。」
「勘よ。女の勘。」
「とにかくここ、離れたほうがいいですよ。」
「らしいわね、って、春日さん、あなた怪我してるの?」
「大丈夫です。」
「とにかく急ぎましょ。」
取りあえず全員バスに戻った筈だったが一人足りなかった。
「何処に行っちゃったのかしら。」
「非常時なんだし、ミサト、あなたが運転すれば?」
「2種なんて持ってないわよ。」
「大型もってれば同じことでしょ。」
「しゃあないか。」
生徒達には、この会話が一番恐ろしかった。
ミサトが運転する。
案の定、バスは後輪から白煙を上げてスタートした。
カーブは傾いて通過した。
生徒達は皆同じことを思っていた。
先生、バスとスポーツカーは違うんですよ。
だが、スリルはすぐに終わった。
「そこで止めて。」
リツコが道路脇の広い空間を指した。
第4光炉からは数分の距離の第10光炉の駐車場だった。
「何でよ?」
「危ないから。」
バスを止めてからミサトは言った。
「リツコがやれって言ったんじゃない!」
「運転の事じゃ無いわ。市内でも、もめてる見たいなのよ。」
「え?」
リツコの端末の画面には市内の道路規制が表示されていた。
「なによ、全面規制って。」
「ここで様子を見ましょう。」
「仕方ないか。」