「見えるか?」
「ええ、どう見てもお呼びで無い連中が敷地内に。」
男は隣に居る加持に双眼鏡を渡した。
「なるほど。」
「どうします?」
「2班と3班に連絡。所定位置に着き次第、状況報告。
 連中の人数を把握したい。」
「了解です。」
別のメンバーが加持に声を掛ける。
「司令です。」
そういってハンドセットを渡す。
「はい。」
「どうかね?」
「索敵中です。敷地内に数名、恐らくビル内にも居るでしょう。」
「こちらにも何人か居るが動きはない。」
「しばらく手出しは控えてください。彼らの手の内を確認します。」
「そちらが本命の可能性が高い。」
「わかっています。それから、ご子息は既に避難済です。」
「それよりも。」
「わかっています。全員連れ帰ります。」
「たのむ。」
通信が切れた。

今度は別なチャネルで呼びかける。
「葛城、見えてるか。」
「ええ、第4光炉の裏側以外はね。」
「で。」
「正面2人、左右に1人づつ。」
「左右の奴は、そっちの2人に確認させておいてくれ。
 指示は後でする。」
「ええ、あと。」
「何だ?」
「屋上に誰か居るわ。」
無線機から彼女の心が聞こえた。
「わかった。」
一旦、無線を切る。
「別班より連絡。敷地内の敵配置の把握完了です。」
「よし。」
加持は先ずライフルを手にした。
距離はおよそ700m。
大した距離ではない。
パスッ。
弾丸は正確にもっとも近い敵の歩哨に放たれた。
が、彼は倒れなかった。
反撃の姿勢を取ったがこちらの位置は掴めていない様だ。
「やはり、だめですか。」
「君らは今回の敵についてどの程度聞いている?」
これは加持の好奇心からの質問だった。
彼らはどこまで聞かされているのだろう。
「通常の兵器を防御できる装備を持っているとだけ聞かされています。
 あとは、あなたの指示で動けと。」
「そうか。」
多分、本当にそれだけしか聞かされていないのだろう。
もっとも自分の知っている事もさして変わりは無いが。
「さて、あれを試しますか。」
今度は黒い望遠鏡を手にした。
ライフルと同様に固定する。
側面にはビデオカメラのファインダーと同様の物が付いていた。
その中の映像の中心に索敵姿勢の敵を写し込む。
トリガーの代わりにボタンを押した。
軽いな。
加持の正直な感想である。
ファインダーの中で敵がゆっくり倒れていく。
距離があるので音は全く聞こえない。
まるで、現実感の無い一瞬だった。
「成功ですね。」
「そうだな。」
単純に嬉しそうに見える彼が羨ましかった。
軽すぎる。
こいつは好きになれそうにない。
加持はそう思った。
「2、3班及び、別班へ連絡。"筒" を使用。」
「了解。」

「司令、"彼" から連絡です。」
インターフォンが告げた。
ゲンドウは手元の受話器を取る。
「私だ。」
「お借りしている、例の "筒" ですが。」
「ああ。」
「敵の歩兵には有効です。」
「了解した。こちらに来ている連中には用が足りるだろう。」
「それから、例の子達がどうやら中へ。」
「そうか。」
「作業、続行します。」
「分かった。」
受話器を置いて、隣に話しかける。
「冬月、念の為 ...」
「分かっている。」


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