音は無い。
少なくとも、その瞬間までは。
そしてそれが空間を走り抜けたことに誰も気付かなかった。
第3新東京市の中心に聳えるビル。
その最上部よりもわずかに下の位置がにわかに輝きを増す。
その輝きはビルの側面を水平に移動して消えた。
輝きが過ぎた部分は以前とは違う黒に支配されていた。
そしてそこから煙と火が見え始めた頃に轟音が訪れた。

「!」
カヲルとレイがそちらを見た時には既に閃光は無かった。
「どうかな。」
「あんたがやったのかい?」
「まあね。」
「兵隊にやらせたのか。」
「そうだねぇ、カヲルが思っているのとは違うと思うが。」
「私を使ったのね。」
ミドリが呟いた。
「え?」
カヲルが振り返る。
そしてレイも。
「私の一部の感覚が応答しない。あなたでしょ。」
「ああ、そうだよ。ミドリは私の切り札だからね。」
「何を言ってるんだ ...」
「つまりだね、ミドリの精神構造はこの街のネットワークと
 密接に繋がっているわけだ。知ってるだろ。
 で、ミドリにはこの街のシステムは全て自由になるわけさ。
 あとは、集光ビルのミラーをいじってやれば、あの通り。」
「ミドリはそんな事はしない!」
「ああ、しないね。出来ないんだよ、もう。」
「どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だよ。」
「初めから私に裏口を付けてあったのね。この日の為に。」
「ああ、そうさ。」
「そして、今は私を消去しようとしてる。」
「いいや、それは違う。元に戻るだけさ。もともと私の一部なんだから。」
「嫌よ、私はあなたじゃない。」
「まあ、頑張ってみたまえ。」

キンッ!
金属的な音がして、閃光が2つ走った。
カヲルとレイが放った物がリョウのそばで同時に弾けた。
「おっと、別に君らの事を忘れていたわけじゃないよ。」
「光栄だね。」
2人の同時攻撃が繰り返される。
当然、壁がそれを阻む。
カヲルの表情が少し変化したがリョウは気付かなかった。
「一つ忠告しよう。それを繰り返して、精神力の勝負に持ち込もうと
 思っているなら無駄だよ。私もミドリ同様に精神構造の一部を
 ネットワークに支えさせている。つまり、君らと違って疲れないんだ。
 いくら壁を使ってもね。」
「らしいね。」
「納得して貰えて良かった。そうそう、もちろん君らは
 これからもこの街で自由に暮らしてもらって構わない。
 君たちにとっては何も変わらない筈だ。
 ゲンドウ氏が引退し、ミドリは居なくなるがね。」
「嫌だってば! 私はずっと皆と暮らすんだ!」
「好きにさせている間に随分とそれらしい事を言うようになったな。
 興味深いよ。あとで、じっくりと解析するとして。」
リョウの目つきが変わる。
瞳の奥に赤い光が走る。
そして、ミドリはその場に静かに倒れた。
「ミドリ!」
カヲルが駆け寄り抱き留めたが、ミドリの身体はとても軽く感じた。
「うそよ。」
レイが呟いた。


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