用は済んだはずだが、彼女はすぐには退室しなかった。
なにか、言いたげな視線を男に送っていた。
「構わんよ、言ってみたまえ。」
「必要だったのでしょうか。」
「この実験が成功すれば、相対的に君らの価値が下がる。
そうすれば、君らは今以上に自由に暮らせるのだ。」
「でも ..」
「バルディエル、君が気にする必要はない。」
「はい ..」
「あれは、ずっと以前に死んでしまったのだ。
その精神を模倣するシステムに記憶を与えたに過ぎない。
彼らは生きてはいなかった、初めから。
ただ、消えるだけだ。
それに、いい夢を見れた筈だ。」
「ほんとうに、生きてはいなかったのでしょうか。」
「そうだ。」
「わかりました。」
静かに一礼すると彼女は退室した。
「気にする必要はない。」
誰もいない部屋で、もう一度繰り返した。